
マンション経営の際に関係してくる税金はいくつかあります。その一つが「所得税」です。所得税は、マンション経営で得た収入に対して課される税金で、得た収入の額によって課税額が変わります。しかし、所得税は適切な対策を講じれば課税額を少なくすることも可能です。
この記事では、マンション経営にかかる所得税の基本的な仕組みや計算方法、そして税負担を軽減するためのコツについて詳しく解説します。
目次
マンション経営にかかる主な税金の種類

マンション経営では、さまざまな種類の税金が関わってきます。まずは主要な税金について理解しましょう。具体的には以下のような税金が課せられます。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税(または法人税)
- 固定資産税
- 都市計画税
所得税
所得税は、個人の所得に対してかかる税金です。マンション経営による収入が課税対象となります。詳しく説明すると、マンション経営で得た収入は「不動産所得」として扱われ、他の所得と合算して課税されます。
不動産所得は、賃貸収入から必要経費を差し引いた金額となります。例えば、家賃収入や共益費収入、更新料などが収入として計上され、これらから管理手数料や修繕費、減価償却費などの必要経費を差し引いて算出します。
重要なのは、マンション経営による不動産所得は、給与所得など他の所得と合算して総合課税されるという点です。つまり、サラリーマンがマンション経営を副業として行っている場合、給与所得と不動産所得が合算されて所得税が計算されます。
また、マンション経営以外の副業収入がある場合も、その種類によっては合算して課税される可能性があります。
住民税
住民税は、地方自治体が徴収する税金です。マンション経営による不動産所得も住民税の計算に含まれるため、所得税と合わせて考慮する必要があります。住民税は、均等割と所得割から構成されており、所得が増えるほど税額も増加します。住民税は、前年の所得に基づいて計算されます。つまり、今年のマンション経営による収入は、来年の住民税に反映されます。
個人事業税(または法人税)
個人事業税は、事業所得に対して課される税金です。マンション経営が事業的規模で行われている場合、個人事業税の対象となります。一方、法人化している場合は法人税が課されます。
マンション経営が事業的規模とみなされる基準は、一般的には貸している部屋の数が10室以上あるかどうかで判断されます。
固定資産税
固定資産税は、土地や建物などの不動産に対してかかる税金です。固定資産税は、その不動産の評価額に基づいて計算されます。一般的に、固定資産税評価額の1.4%が税額となります。
都市計画税
都市計画税は、都市計画事業または土地区画整理事業に要する費用に充てるために課される目的税です。固定資産税と同様に、土地や建物の所有者に課税されます。都市計画税の税率は自治体によって異なりますが、一般的に0.3%程度です。
マンション経営で消費税をどう取り扱うかは、物件の用途や事業規模によって異なります。居住用賃貸物件のみを扱っている場合、年間の課税売上高が1,000万円を超えたとしても、消費税の課税対象にはなりません。これは、住宅の賃貸が非課税取引と定義されているためです。 なお、オフィスや店舗などの事業用賃貸物件は消費税の対象となります。 |
マンション経営にかかる所得税の計算方法

ここまでマンション経営にかかるさまざまな税金を説明しました。ここからは、所得税について深掘りをしていきます。
マンション経営にかかる所得税算出の流れ
まずはマンション経営で課される所得税がどれくらいになるのか、その算出の仕方を解説します。
STEP1.不動産所得を算出する
まずは不動産所得の計算をします。不動産所得は得た収入から必要経費を差し引いて算出します。収入には、主に家賃収入や共益費収入などが含まれます。一方、必要経費に含まれる代表例は、減価償却費や管理費などが挙げられます。必要経費については後述します。
STEP2.課税所得を算出する
課税所得の算出は、不動産所得だけでなく、他の所得も含めて行います。具体的な計算式は以下の通りです。
課税所得 = 不動産所得 + 他の所得 - 各種所得控除 |
「他の所得」には、給与所得や副業で得た収入が含まれます。例えば、会社員としての給与所得が500万円、マンション経営による不動産所得が50万円ある場合、これら二つを合算して所得の合計は550万円になります。
さらに、ここから各種所得控除が差し引かれます。所得控除には基礎控除や配偶者控除、扶養控除などがありますが、詳しくは後ほど解説します。
STEP3.所得税額を算出する
最後に、算出された課税所得に基づいて所得税額を計算します。所得税額の計算式は以下の通りです。
所得税額 = 課税所得 × 税率 - 控除額 |
適用される税率は、課税所得の金額に応じて段階的に上がっていきます。この計算方法は累進課税と呼ばれ、所得が多くなるほど税率が高くなる仕組みになっています。そのため、マンション経営による不動産所得が増えれば増えるほど、税金の負担も増加します。その代わり、税率が上がるほど控除額も大きくなります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
なお、2013年から2037年までは計算した所得税に加えて復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加算されることになっています。
ちなみに、所得税額に対して適用される「税額控除」もありますが、適用される対象が幅広いかつ控除の額も対象によって変わるため、説明は割愛します。
所得税の計算方法の具体例
マンション経営にかかる所得税の計算方法を具体的な数字を使って説明します。以下の例を見てみましょう。
●収入 ・家賃収入:830万円 ・共益費収入:30万円 ・更新料:30万円 計890万円 |
●必要経費 ・借入金の利息:45万円 ・管理費:23万円 ・修繕費:120万円 ・減価償却費:190万円 ・火災保険料:12万円 計390万円 |
※築10年のRC造のマンションの場合(参考値)
まずは不動産所得の額を計算します。「収入- 必要経費」で求められますので、「890万円-390万円=500万円」で、不動産所得は500万円になります。
そして、不動産所得以外に、給与所得などがある場合は、合算して課税所得を求めます。今回は給与所得が600万円あると仮定して計算を行います。
給与所得+不動産所得=総所得 600万円+500万円=1100万円 総所得-各種所得控除=課税所得 1100万円-160万円=940万円 課税所得は940万円 |
最後に、課税所得の額に対応する税率を掛け、控除額を差し引きます。
課税所得×税率-控除額=所得税額 940万円×0.33-153万6,000円=156万6,000円 所得税額は156万6,000円 |
ちなみに、復興特別所得税(所得税額の2.1%)を加算した場合の総額を求めたい場合は、以下の計算を行います。
所得税額+所得税額の2.1%=復興特別所得税込みの総額 156万6,000円+(156万6,000円×0.021)=159万8886円 |
課税所得を算出する際に差し引かれる主な所得控除
先ほどの解説で、課税所得を算出する際に各種所得控除の額を差し引きました。所得税の額を正しく求めるためには、所得控除についての理解も大切になってきます。ここでは主な所得控除について解説します。具体的には以下のような控除があります。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 社会保険料控除
- 医療費控除
- 障害者控除
基礎控除
基礎控除は、全ての納税者が受けられる基本的な所得控除です。2020年に、基礎控除の仕組みが変更され、納税者本人の合計所得金額に応じて控除額が変動する制度になりました。
現在は合計所得金額が2,400万円以下の場合は一律48万円の控除が受けられます。2,400万円を超えている場合は控除額が段階的に減額されます。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
配偶者控除
配偶者控除は、配偶者がいる納税者が受けられる控除です。配偶者の所得が一定額以下である場合に適用され、所得税の負担を軽減することができます。なお、どれくらいの控除を受けられるかは、配偶者の収入と納税者本人の所得の額が関係します。具体的には配偶者の所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)の場合、配偶者控除が適用されます。控除の額は納税者本人の所得が高くなるほど少なくなります。ただし、納税者本人の合計所得が1000万円を超えるとこの控除は適用されません。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
900万円以下 | 38万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 |
1,000万円超 | 0円 |
配偶者特別控除
配偶者の所得金額が48万円超で先述した配偶者控除が利用できない場合でも、配偶者の所得金額によっては一定の控除を受けられることがあります。この控除を配偶者特別控除と言います。
配偶者の所得金額が48万円超133万円以下の場合、所得の額に応じて控除が適用されます。なお、配偶者控除と同じく、納税者本人の合計所得が1000万円を超えるとこの控除は適用されません。
扶養控除
扶養控除は、扶養家族がいる納税者が受けられる控除です。扶養家族の年齢や状況に応じて、控除額が異なります。
●納税する年の12月31日現在の年齢が16歳以上30歳未満の人
●納税する年の12月31日現在の年齢が70歳以上の人
●納税する年の12月31日現在の年齢が30歳以上70歳未満の方であって次に掲げるいずれかに該当する人
・留学により国内に住所および居所がない人
・障害者
・生活費または教育費に充てるための支払いを38万円以上受けている人
こうした条件に該当する人を扶養している場合、扶養控除が受けられる可能性があります。ただし、扶養されている人の年間の合計所得金額が48万円を超える場合、控除の対象から外れます。
社会保険料控除
社会保険料控除は、納税者が支払った社会保険料に対して適用される控除です。健康保険料や年金保険料などが対象となり、支払った金額全額が控除されます。マンション経営者が個人事業主として国民健康保険や国民年金に加入している場合、これらの保険料も全額控除の対象となります。また、従業員を雇用している場合、事業主負担分の社会保険料も経費として計上できます。
医療費控除
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に適用される控除です。マンション経営者自身や家族の医療費が高額になった場合、この控除を利用することで税負担を軽減できる可能性があります。ただし、美容整形や健康診断などの費用は控除の対象外です。
障害者控除
障害者控除は、納税者本人や扶養親族が障害者である場合に適用される控除です。控除の額は障害の程度によって変動します。
不動産所得を算出する際に認められる収入と必要経費の主な項目
課税所得を正確に算出するためには所得して認められる収入と、経費として認められる支出を理解することが重要です。ここで不動産所得に該当する収入と、経費に該当する支出について解説します。
不動産所得を算出する際に認められる主な収入
不動産所得に該当する収入には、以下のようなものがあります。
項目 | 概要 |
家賃収入 | 所有するマンションを貸し出し、入居者から毎月受け取る家賃 |
共益費収入 | マンションの共用部分の維持管理費用として入居者から徴収する費用 |
更新料や礼金 | 賃貸借契約の更新時または入居時に受け取る金銭 |
駐車場や倉庫の貸し出しによる収入 | マンションに付属する駐車場や倉庫の利用代として受け取る費用 |
不動産所得を算出する際に認められる主な必要経費
必要経費として認められている支出には、以下のようなものがあります。適切に経費計上すれば、所得の額を抑えることが可能です。
項目 | 概要 |
減価償却費 | 建物や設備の購入費用を耐用年数に応じて分割計上する経費。建物本体のほか、エレベーターや給排水設備なども減価償却の対象 |
管理費 | マンションの維持管理のために支払う費用。管理会社への委託費用、清掃費、警備費など |
修繕費 | マンションの維持修繕のために支出した費用 |
借入金の利息 | ローン返済時に支払った利息 |
各種保険料 | 火災保険料や地震保険料、施設賠償責任保険料など |
交通費 | マンションの管理や入居者の対応のために利用したタクシー代や鉄道の運賃など |
通信費 | マンション経営に関連して使用した電話代やインターネット代など |
マンション経営の税負担を軽減する方法
マンション経営の成功には、適切な税務戦略が欠かせません。ここでは、税負担を軽減するための有効な方法を紹介します。
経費は漏れがないよう適切に計上する
マンション経営における税負担軽減の基本は、認められる経費を正確かつ漏れなく計上することです。適切な経費計上により、課税所得を抑えることができ、結果として納税額の削減につながります。
ただし、経費の計上には明確な根拠が必要です。経費計上したい支出については、しっかりと証拠記録を残すようにしましょう。特に、私用と業務用が混在する可能性のある経費(例:通信費、交通費)については、使用実態に応じた計上が求められます。また、経費の過剰計上は悪質なものと捉えられると罪に問われる可能性がありますので、必ず正しい額を計上するようにしましょう。
損益通算を活用する
損益通算は、異なる所得区分間で利益と損失を相殺する仕組みです。マンション経営で赤字が出た場合、この損益通算を活用することで税負担を軽減できる可能性があります。
例えば、サラリーマンがマンション経営を副業として行っている場合、不動産所得で生じた損失を給与所得から差し引くことができます。これにより、全体の課税所得が減少し、結果として税負担が軽減されます。
ただし、損益通算には一定の制限があります。例えば、不動産所得の赤字のうち土地等の取得にかかる借入金利子の額がある場合、その分は他の所得と損益通算することができません。詳しい仕組みを知りたい場合は、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。
青色申告を活用する
青色申告は、事業所得や不動産所得のある個人事業主が利用できる申告方式です。
青色申告の主なメリットは、最大で65万円の特別控除を受けられることです。また、青色申告を利用すると、純損失の繰越控除などのメリットを受けられます。例えば、不動産所得で生じた損失を最長3年間繰り越して、将来の所得から控除することができます。
さらに、青色申告では、家族従業員に支払う給与を必要経費として認めてもらいやすくなります。これは、青色事業専従者給与と呼ばれるもので、一定の条件を満たせば、配偶者や親族に支払う給与を経費として計上できます。
青色申告を始めるには、開業後2カ月以内に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
法人化を検討する
マンション経営の規模が大きくなってきた場合、法人化を検討するのも一つの選択肢です。
法人化のメリットの一つは、所得税の累進課税を避けられることです。個人事業主の場合、所得税は累進課税制度が採用されていて最大45%ですが、法人の場合は一定の税率が適用されます。つまり、所得が多い場合は法人化によって税率が低くなる場合があるというわけです。
また、法人化すると、役員報酬や従業員給与を経費として計上できます。これにより、課税所得を調整しやすくなります。さらに、法人ではさまざまな節税対策を活用しやすくなります。例えば、退職金制度や役員保険の活用などが可能になります。
ただし、法人化にはデメリットもあります。例えば、設立や運営にかかる費用、事務負担の増加、社会保険料の負担増などが挙げられます。また、個人事業主の場合に適用される青色申告特別控除なども使えなくなります。法人化の判断は、現在の経営規模や将来の事業計画なども含めて総合的に検討しましょう。
マンション経営に関連する税金を正しく理解しよう
マンション経営では、所得税をはじめ、住民税、個人事業税(法人税)、固定資産税、都市計画税など、さまざまな税金が関わります。特に所得税は、控除の活用次第で負担額が大きく変わります。適切な経費計上や損益通算、青色申告などを上手に活用すれば、税負担を抑えながら効率的なマンション経営が可能になるでしょう。
とはいえ、種類の多い税金を全て正しく把握するには経験を積むことも必要になってきます。経営を始める前は不動産投資の専門家や税理士などにアドバイスを求めると良いでしょう。
新日本コンサルティングは、マンション経営に関する豊富な経験と専門知識を持ち、物件選びから運営管理まで、マンション経営に関する総合的なサポートを提供しています。マンション経営に興味のある方は、ぜひ気軽に資料請求やお問い合わせください。