
マンション経営を始めるとき、多くの人は「どう運用していくか」や「どれだけ収益を上げられるか」に目を向けがちです。しかし、物件をどう手放すのかという「出口戦略」も同じくらい重要な要素と言えます。
この記事では、マンション経営における出口戦略の重要性や具体的な選択肢、そして出口戦略で後悔しないためのポイントについて解説します。
目次
マンション経営において出口戦略が重要な理由

マンション経営を始める際に出口戦略をあらかじめ考えておかないと、思わぬリスクを抱えることになったり、本来得られるはずの利益を取りこぼしてしまったりすることがあります。
まずは、出口戦略がなぜ重要なのかを見ていきましょう。
マンション経営の収益は手放したタイミングで確定するため
マンション経営では、家賃収入だけでなく、最終的に物件をどのような条件で手放すかによって、トータルの利益が変わります。賃貸経営で安定した収入を得ていたとしても、売却時に物件価格が大きく下落すれば、期待した利益を得られない可能性があります。
一方で、計画的に出口戦略を立てておけば、物件の価値が高いタイミングで売却し、大きな利益を得ることも可能です。そのため、マンション経営の成功には、日々の運営だけでなく、将来的な出口戦略を考慮することが不可欠と言えます。
売りたいときに売れないリスクを回避するため
不動産は流動性が低く、即座に売却するのが難しい資産です。出口戦略を持たずに経営を続けていると、いざ売却したいときに希望価格で売れない可能性が高まります。もし急に売りたくなっても買い手が見つからなければ、不利な条件で売却せざるを得ないこともあるかもしれません。出口戦略はこのようなリスクを軽減するためにも重要です。
築年数の経過が原因で損失が生じるリスクを減らすため
マンションは築年数が経過するにつれて、老朽化により家賃や売却価格が下落する可能性があります。また、修繕費の増加も収支を悪化させる要因となります。マンションの価値が下がったり、修繕が発生したりする前に売却できれば、将来的な費用を抑えつつ、比較的高い価格で売れる可能性もあります。
出口戦略を立てておくことで、「どの時点で売るべきか」をあらかじめ想定しやすくなるのです。
市場変化に柔軟に対応するため
マンション経営を続けていると、周辺環境が変化することがあります。大型商業施設の閉店、騒音や臭いが気になる施設の建築など、物件の価値に影響を与えるネガティブな要因はさまざまです。あらかじめ出口戦略を持っていれば、周囲の変化に合わせて物件を手放す判断がしやすくなります。
なお、新しい公共交通機関の開通や大規模な大学の新設など、ポジティブな変化が起きたときはマンションを手放さず、家賃を上げるといった選択肢もあります。
マンション経営で用いられる主な出口戦略

マンション経営の出口戦略と言っても、実際は状況に応じていくつかの選択肢があります。どのような出口戦略があるか、一つずつ見ていきましょう。
マンションを現況のまま売却する
入居者がいる状態のまま「オーナーチェンジ物件」として売却する方法です。追加の修繕や手間がかからず、比較的スムーズに現金化できる点がメリットと言えます。オーナーチェンジ物件として売却する場合、物件の管理状態や入居率などが価格に影響する傾向にあります。
マンションをリフォームしてから売却する
物件の内装や設備を改修し、資産価値を高めたうえで売却する方法です。築年数や設備仕様の見劣りがある場合に、見た目や機能性を向上させることで、買主の興味を引く狙いがあります。
リフォームを行うには費用がかかるため、利益を上げるには費用対効果に見合った工事ができるかどうかが成功のカギです。どの部分をどのようにリフォームするかの判断も大事になるでしょう。
マンションを解体して更地を売却する
マンションを解体して更地を売却する戦略は、土地の価値を最大限に活かした方法です。この戦略は、老朽化が進んだマンションを経営しているときに選ばれる傾向があります。
更地にして売却するには解体費用がかかり、また入居者がいない状態にする必要があるため、立ち退き料が別途発生することを考慮しなければなりません。しかし、立地条件が良好で土地の需要が高いエリアでは、建物を取り壊すことで、より高い価格での売却が可能になる場合があります。更地にして売却する際は、解体後の土地の評価額と解体にかかる費用を比較し、見込める利益を算出することが重要です。
マンションを建て替える
既存のマンションを取り壊し、同じ土地に新たなマンションを建築して再び賃貸運用を行う方法です。同じ土地でマンション経営を続けたい場合に適しています。更地にするときと同じく解体費用はかかりますが、新しく建てたマンションの家賃収入で費用を回収できるのがメリットです。また、建て替えによって、新しい設備やよりニーズに合った間取りを採り入れられるため、家賃収入の増加や資産価値の向上も期待できます。
建て替えには多額の初期費用が必要となるため、資金計画や将来的な収支計画を綿密に立てる必要があります。
マンション以外の新しい建物に建て替える
土地の用途を変更し、オフィスビルや商業施設など別の種類の建物を建築する方法です。土地を有効活用しつつ、別の不動産の経営をしたいときの方法でもあります。周辺の人口動態や開発計画を踏まえて、より収益性の高い建物に転換することで、投資効率を高められる可能性があります。
現在の入居者に購入を提案する
区分マンションを所有して経営している場合、現在の入居者に購入を提案するという選択肢もあります。入居者にとっては、既に住み慣れた環境のまま物件を得られる点がメリットです。オーナー側も物件の状態や周辺環境をよく知る相手に売却でき、スムーズな取引が期待できるというメリットがあります。ただし、購買意欲が十分あり、なおかつ購入できるほどの資金を有している入居者がいることが前提条件となります。
マンションを売却するのに適したタイミング
マンションをいつ売却するかは、経営成果に大きく影響する重要な判断です。ここでは、売却の検討タイミングとして代表的な5つのケースを紹介します。
不動産価格が高騰しているとき
不動産市場が活況で価格が上昇している局面では、高値での売却が期待できます。経済状況の回復や再開発などで需要が高まると、複数の買主候補が現れ、価格競争が生じやすくなります。こうした状況では、交渉を有利に進めやすく、売却益を最大化できる可能性があります。ただし、価格高騰が一時的なものかどうかを見極める必要があるため、市場動向の把握が不可欠です。
減価償却期間が終了するとき
マンション経営における重要なポイントの一つが、減価償却期間の活用です。不動産投資で得られる所得は、給与所得などとの損益通算が可能です。しかし減価償却期間が終了すると、減価償却費を経費として計上できなくなるため、課税所得が増加し、税負担が大きくなる可能性があります。
損益通算の仕組みについて、具体例を使って説明します。今回は給与所得が500万円で、マンション経営による不動産所得が100万円、必要経費(管理費や修繕費、ローン利息などに加えて減価償却費も含む)が150万円と仮定して考えてみましょう。
この場合、不動産所得は「100万円 – 150万円 = マイナス50万円」で、50万円の赤字となります。この赤字分を給与所得から差し引くことができるため、課税対象となる所得は500万円 – 50万円 = 450万円となります。つまり、50万円分の所得に対する税金を軽減できるのです。
しかし減価償却期間が終了すると150万円の経費計上ができなくなり、結果的に課税所得が多くなるのです。
このように、減価償却期間の終了は税負担の増加につながるため、この時期を見据えて売却を検討することも一つの戦略と言えます。
空室が多い状態が続いたとき
空室が多い状態が長期間続くと、収益の減少や物件の魅力低下につながります。例えば、周辺地域の人口減少や供給過多など構造的な要因による空室は、改善の見込みが乏しい場合もあります。加えて、経営を長く続けていると建物の老朽化や設備の陳腐化によって、リノベーションなしでは入居者を集めるのが難しくなることもあります。こうした状態の改善が難しい場合は、早期に売却して損失拡大を防ぐ判断が取られることがあるのです。
大規模修繕工事が必要になる前
マンションは定期的に大規模修繕工事を行う必要があり、これはマンション経営において大きな支出となります。築20年前後を目安に発生する大規模修繕は、数百万円〜数千万円規模の支出となることもあります。このような大きな支出を避けたい場合、修繕工事の前に売却を検討するのも一つの戦略です。
ただし、買主側も大規模修繕の時期を考慮して購入を検討するため、適切な価格設定が重要となります。
マンションを所有してから5年超が経過したとき
不動産は売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかによって、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」のどちらかが適用されます。
二つの違いは課せられる税率です。短期譲渡所得の売却益にかかる税率のほうが高いため、長期譲渡所得に切り替わった後のタイミングで売却するのも、出口戦略の一つです。
所有期間が5年を超えると、売却で得た利益にかかる所得税と住民税の税率が変わります。短期譲渡所得の場合、所得税30%+住民税9%の計39%の税率が適用されますが、長期譲渡所得では所得税15%+住民税5%の計20%に軽減されます。
適用される区分 | 所得税の税率 | 住民税の税率 |
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
※上記の税に加えて復興特別所得税(税率は一律2.1%)がかかる
マンション経営の出口戦略で後悔しないためのポイント
出口戦略を後悔のないものにするには、初期の段階から計画性を持ち、なおかつ状況の変化にも対応できる柔軟さが求められます。
将来的に売却することを考慮しながら物件を選ぶ
マンション経営は購入の時点から出口を見据えることが大切です。売却しやすい物件を選ばなければ売却先が限られ、将来的に希望通りの価格での売却が難しくなります。
例えば、初期費用が押さえられることを理由に駅から遠い変形地にマンションを建ててしまうのは望ましくありません。生活利便性・建物の品質・再開発予定などは、将来的な売却価格に直結しやすい要素です。
こうしたポイントを踏まえた物件選びが、結果として出口戦略の選択肢を広げることにつながります。
自己資金をなるべく多く投入して物件を購入する
自己資金をできるだけ多く投入しての物件購入は、物件を容易に手放せるようになるテクニックの一つです。物件購入時に自己資金を多く投入しておくと、ローン返済の負担が軽くなり、出口戦略を考えやすくなります。物件の売却時にローン残高が多いと、売却のタイミングが難しくなったり、売却価格によってはローンの残金を完済できなかったりする可能性があります。一方、自己資金比率が高ければ、市場の変化や個人の事情に応じて柔軟に売却を検討できます。
状況によっては経営を続けることも視野に入れる
マンション経営においては必ずしも売却が正解とは限りません。物件の稼働率が高く安定収益を得られている場合、あえて保有を継続する選択肢もあります。
例えば、空室リスクが低く、安定した収益が得られている状況では、経営を継続することのメリットが大きいです。特に、立地条件が良好で将来的な価値上昇が期待できる物件や、管理が行き届いており修繕費用が抑えられている物件などは、長期保有によってより多くの収益が得られる可能性があります。
マンション経営の出口戦略に関するよくある質問
最後に、マンション経営の出口戦略について疑問を抱きやすいポイントを取り上げながら、改めてわかりやすく解説します。理解しやすいようQ&A方式でまとめました。
Q.売却で得る利益は、普段の家賃収入とは異なる?
A.売却で得る利益は、普段の家賃収入とは性質が異なります。
家賃収入は、不動産を「持っている間」にコツコツと得る利益(インカムゲイン)です。一方、売却益は不動産を「売ったとき」に一度に得る利益(キャピタルゲイン)です。インカムゲインは定期的な収入として生活資金や運転資金に充てやすい一方、キャピタルゲインは一時的ながら大きな収入となることが多いです。
Q.マンションは築浅物件であれば高く売却できる?
A.築浅物件は一般的に高値で売却しやすい傾向がありますが、必ずしも高く売却できるとは限りません。
築浅物件は建物の劣化が少なく、買い手にとって魅力的なため、人気があります。設備や間取りがニーズに合致していれば入居者も見込みやすく、買い手から見ると空室リスクが低い物件ということになります。
しかし築浅でも立地が悪ければ、高値での売却は難しいでしょう。さらに、同様の物件が近隣に多数ある場合、競争が激しくなり売却価格が下がることもあります。物件の価値は、築年数だけでなく総合的な要素によって決まります。
Q.どの出口戦略を選ぶのが適切?
A.適切な出口戦略は、賃貸物件の築年数、入居率、ローン残債の有無等によって異なります。
行き当たりばったりで決めるのではなく、早め早めに考えて準備するのが望ましいです。築浅で入居率が高い物件であれば、そのままの状態で売却する選択肢が現実的です。反対に築年数が経過しているものの、立地が良ければ、リノベーション後の売却が有効かもしれません。ローン残債が大きい場合は、経営を続けて元本を減らしてから売却を検討する、という戦略もあります。このように、出口戦略は物件の状態だけでなく、投資目的や市場環境とのバランスを考えた判断が重要です。
マンション経営をするときは出口戦略も見据えて計画しよう
今回はマンション経営における出口戦略を解説しました。出口戦略はマンション経営全体の成功を左右する要素でもあります。物件選びの段階から将来的な売却を見据え、市場動向や自身の財務状況を常に把握しながら戦略を立てましょう。
新日本コンサルティングは、マンション経営に関する豊富な経験と専門知識を持ち、物件選びから運営管理まで、マンション経営に関する総合的なサポートを提供しています。マンション経営に興味のある方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。